破産と私的整理で手元に残るものはどう違うか│経営者保証ガイドラインの残存資産と、自由財産99万円
会社の資金繰りが行き詰まったとき、経営者が最初に口にするのは「会社をどうするか」ですが、その次に必ず出てくるのが「自分の生活はどうなるのか」です。中小企業の融資では経営者個人が連帯保証をしているのが通常で、法人を清算しても保証債務は消えないからです。
この保証債務の処理には、大きく分けて破産などの法的整理と、「経営者保証に関するガイドライン」に基づく私的整理の二つの道があります。どちらを選ぶかで、手元に残る財産の範囲も、その後の信用情報の扱いも変わります。本記事では、両者で何がどう違うのかを、ガイドライン本文の条項に沿って整理します。
会社の整理と、経営者個人の保証債務の整理は別の手続です
まず前提として、法人の破産と経営者個人の債務整理は自動的に連動しません。法人が破産しても、金融機関は連帯保証人である経営者個人に残額を請求できます。逆に、法人を再生型で立て直す場合でも、保証債務だけを切り離して整理することはあり得ます。
そのため実務では、法人の整理方針を決めると同時に、経営者個人の保証債務をどう処理するかを設計することになります。そして、この設計の巧拙が、経営者の手元に何が残るかを決めます。
破産を選んだ場合、手元に残るのは「自由財産」です
破産手続では、開始時に破産者が持っている財産は原則として破産財団に組み入れられ、債権者への配当に回ります。その例外として手元に残せるのが自由財産で、中心になるのが99万円までの現金です(破産法34条3項1号)。
この99万円という金額は、民事執行法が差押えを禁じている金銭の額を基準に決まっています。民事執行法は、標準的な世帯の2か月間の必要生計費として政令で定める額の金銭を差押禁止としており(民事執行法131条3号)、その額は66万円と定められています(民事執行法施行令1条)。破産法は、これに2分の3を乗じた額を自由財産としているため、99万円になります。
このほか、差押禁止財産(民事執行法131条・152条に該当する動産や給与債権の一定部分など)も自由財産になり、さらに裁判所は破産者の生活の状況や収入の見込みなどを考慮して、自由財産の範囲を拡張する決定をすることができます(破産法34条4項)。生命保険の解約返戻金や敷金返還請求権などについて、この拡張が問題になります。
ただし、拡張といっても無制限に認められるわけではありません。破産法34条4項は、拡張するかどうかを「破産者の生活の状況、破産手続開始の時において破産者が有していた第3項各号に掲げる財産の種類及び額、破産者が収入を得る見込みその他の事情を考慮して」判断するとしており、金額の基準は条文に書かれていません。何をどこまで残せるかは、この考慮要素に沿った各裁判所の運用に委ねられています。また、申立てができる期間にも制限があり、破産手続開始の決定があった時から、その決定が確定した日以後1か月を経過する日までとされています(同項)。
運用の目安として広く知られているのは、99万円の現金が自由財産とされていることとの均衡です。拡張後の自由財産の総額がこの水準に収まるのであれば比較的緩やかに認められ、これを超えると慎重に判断される、という組み立てになっています。
そして、その枠を超える資産をどうしても手元に残したい場合には、超える部分に相当する金銭を破産財団に組み入れる(差し入れる)という処理をとることがあります。これは条文に定められた制度ではなく、破産管財人との協議による扱いです。いずれにせよ、拡張の申立てをすれば財産が無償で手元に残る、という話ではなく、残したい資産に見合う原資を別途用意できるかという問題になります。
一方、自宅は原則として処分の対象です。住宅ローンが残っていれば抵当権者が競売にかけますし、ローンが完済されていても換価されて配当に回ります。また、破産した事実は信用情報登録機関に登録され、一定期間は新たな借入れやクレジットカードの利用が難しくなります。
経営者保証ガイドラインを使うと、何が変わるのか
「経営者保証に関するガイドライン」は、中小企業団体と金融機関団体の関係者が、中立公平な学識経験者や専門家とともに策定した準則で、平成26年2月1日から適用されています(8項(1))。本文は全国銀行協会のサイトで公開されています。
残存資産の出発点は、破産の自由財産と同じ考え方
ガイドラインは、保証人の手元に残せる財産を「残存資産」と呼び、その範囲を決めるときの考慮要素を列挙しています(7項(3)③)。そこには、保証人の保証履行能力や従前の履行状況、窮境に至った経緯に対する保証人の帰責性などと並んで、「破産手続における自由財産(破産法第34条第3項及び第4項その他の法令により破産財団に属しないとされる財産をいう。)の考え方や、民事執行法に定める標準的な世帯の必要生計費の考え方との整合性」が挙げられています(同ホ))。
つまり、ガイドラインを使ったからといって、いきなり大きな財産が残るわけではありません。まずは破産と同じ水準が出発点になります。
上乗せが検討されるのは、債権者の回収見込額が増えた場合です
ガイドラインが破産と決定的に異なるのは、ここから先です。経営者である保証人が早期に事業再生や事業清算に着手する決断をし、それが主たる債務者の事業再生の実効性向上などに資するものとして、対象債権者にとっても一定の経済合理性が認められる場合には、次のように定められています。
対象債権者は、破産手続における自由財産の考え方を踏まえつつ、経営者の安定した事業継続、事業清算後の新たな事業の開始等……のため、一定期間(当該期間の判断においては、雇用保険の給付期間の考え方等を参考とする。)の生計費(当該費用の判断においては、1月当たりの標準的な世帯の必要生計費として民事執行法施行令で定める額を参考とする。)に相当する額や華美でない自宅等……を、当該経営者たる保証人……の残存資産に含めることを検討することとする。
金額の目安は、この括弧書きから逆算できます。1か月あたりの標準的な世帯の必要生計費は、先ほどの66万円を2か月分とみて1か月33万円です。期間は雇用保険の給付期間の考え方を参考にするとされており、基本手当の所定給付日数はおおむね90日から330日の範囲にあります。単純に掛け合わせれば、おおよそ100万円台から300万円台という幅になります。破産の99万円と比べれば、生活再建のための時間を買えることになります。なお、この目安はあくまで生計費に相当する部分の話で、自宅はこれとは別枠で検討されます。
もっとも、ここでいう「生計費」は、標準的な生活費だけを指すものとは限りません。私の知る限りでは、家族の治療費を考慮して残存資産が上積みされた事案もあります。生計費の中身が画一的に決まっているわけではない以上、なぜその金額が必要なのかを具体的な事情とともに説明できるかどうかが、結論を左右します。
この上乗せには上限が定められていて、そこが実質的な要件として働きます。主たる債務の整理が再生型手続なら「破産手続等の清算型手続に至らなかったことによる対象債権者の回収見込額の増加額」、清算型手続なら「当該手続に早期に着手したことによる、保有資産等の劣化防止に伴う回収見込額の増加額」が上限です。債権者の回収額が増えた分の範囲内で、保証人にも残す、という構造になっています。
差額を示しやすいのは、清算型で早く着手した場合よりも、会社を再生できた場合です。破産に至っていれば回収はこれだけだったはずが、再生できたのでこれだけ回収できる、という比較は具体的に組み立てやすく、金額も大きくなりやすいからです。一方、清算型で「早く決断したおかげで資産の劣化を防げた」という主張は、理屈としては同じ構造ですが、増加額の見積もりが難しく、幅も出にくくなります。経営者個人の手元に何を残せるかという観点から見ても、会社を再生できるかどうかは大きな分かれ目になります。
裏を返せば、再生の可能性が残っているうちに動けるかどうかが、保証人自身の生活再建の幅を左右します。手遅れになってから持ち込んでも、上乗せの根拠そのものが出てきません。
もっとも、清算型だから上乗せの余地がない、という意味ではありません。早期に着手したことで在庫や売掛金の劣化を防げた、事業を止める前に譲渡先を見つけられて換価額が上がった、といった事情を具体的に示せれば、清算型でも上乗せは十分に主張できます。再生型か清算型かという形式で決まるのではなく、回収見込額がどれだけ増えたかを数字で説明できるかどうかの問題です。
華美でない自宅
自宅については、ガイドライン本文が「華美でない自宅等」と書いているだけで、具体的な基準はありません。地域の事情、保証人の資産状況、窮境に至った経緯における責任の程度などを踏まえて、個別に判断されることになります。
事案によりますが、私の知る限りでは、数千万円程度の価値のある自宅が残存資産として認められた例もあります。「華美でない」という言葉の語感から想像するよりは、幅のある運用がされていると考えてよさそうです。
また、自宅が残るといっても、当然に無償で手元に残るという意味ではありません。ガイドラインは、処分・換価の代わりに「公正な価額」に相当する額を弁済する場合を想定しており、その弁済を原則5年以内の分割弁済とする計画もあり得るとしています(7項(3)④ロ)及び注8)。親族からの資金援助で相当額を払って自宅を確保する形もあれば、保証債務の一部弁済だけで自宅を残せた事案もあり、一律ではありません。
信用情報登録機関に報告・登録されない
実務上、経営者が最も気にするのがこの点です。ガイドラインは次のように定めています。
このガイドラインによる債務整理を行った保証人について、対象債権者は、当該保証人が債務整理を行った事実その他の債務整理に関連する情報(代位弁済に関する情報を含む。)を、信用情報登録機関に報告、登録しないこととする。(8項(5))
破産を選べば信用情報に登録されますが、ガイドラインによる整理であれば登録されません。事業清算後に新しい事業を始めたい、あるいは再就職して生活を立て直したいという場面では、この差は小さくありません。
一部を払えば、残りは免除の対象になる
ガイドラインは、保証人が資力に関する情報を誠実に開示し、その正確性について表明保証を行うことなどの要件を満たす場合に、対象債権者は保証債務の一部履行後に残存する保証債務の免除要請に誠実に対応するとしています(7項(3)⑤)。保証債務が残り続けることはありません。
使うためのハードルもあります
ここまでを読むと良いことづくめに見えますが、ガイドラインには構造上の制約があります。
- 法的拘束力がありません。ガイドラインは関係者が自発的に尊重し遵守することが期待されている準則であって、法律ではありません(2項(1))。多数決で反対債権者を拘束できる法的整理と違い、対象債権者の同意が得られなければ成立しません。
- 対象になるのは金融債権です。対象債権者は中小企業に対する金融債権を有する金融機関等とされています。税金や社会保険料の滞納、取引先への買掛金などはガイドラインの枠組みの外にあり、別に処理を考える必要があります。
- 資力の開示が前提です。保証人は資力に関する情報を誠実に開示し、その正確性を表明保証します。資産の隠匿を目的とした贈与などが後から判明した場合には、免除された保証債務と免除期間分の延滞利息を付けて追加弁済する旨を、あらかじめ書面で合意することとされています(7項(3)⑤ニ))。
- 弁済計画は原則5年以内です。(7項(3)④イ)c))
とりわけ「対象債権者の同意が要る」という点は、私的整理全般につきまとう壁です。取引金融機関が複数あり、そのうち1行でも反対すれば手続は進みません。この全員同意の壁をどう扱うかという論点については、「全員同意」の壁を越える私的整理へ|早期事業再生法(2026年12月11日施行)を解説で別に書きました。
廃業する場面の考え方も、別に示されています
ガイドラインは事業再生の場面を主に想定して作られましたが、廃業の局面では使いにくいという指摘がありました。これを受けて、令和4年3月に「廃業時における『経営者保証に関するガイドライン』の基本的考え方」が公表されています。円滑な廃業に向けた早期の相談や、経営者の生活基盤への配慮について、当事者それぞれの対応が整理されています。
また、金融庁は「経営者保証に関するガイドライン」の活用に係る参考事例集を公表しており、実際にどのような残存資産が認められたのかを確認できます。交渉の材料としても使えます。
整理すると
| 比較項目 | 破産(法的整理) | 経営者保証ガイドライン(私的整理) |
|---|---|---|
| 手元に残る現金 | 99万円が基本(破産法34条3項1号)。拡張の余地はあるが、枠を超える分は相当額の財団組入れを求められるのが通常(同条4項) | 自由財産の考え方を出発点に、早期着手の場合は一定期間の生計費相当額まで検討(7項(3)③) |
| 自宅 | 原則として処分の対象 | 「華美でない自宅等」を残存資産に含めることを検討(相当額の弁済を求められることもある) |
| 信用情報 | 登録される | 対象債権者は報告・登録しない(8項(5)) |
| 必要な同意 | 不要(裁判所の手続で進む) | 対象債権者の同意が必要(法的拘束力なし・2項(1)) |
| 対象となる債務 | 原則としてすべての債務 | 金融機関等の保証債権が中心。税金・社会保険料は対象外 |
| 使えるタイミング | 行き詰まった後でも可能 | 再生できた場合に上乗せの幅が出やすい。手遅れだと根拠が出ない |
よくある質問
会社が破産しても、経営者はガイドラインを使えますか
使えます。ガイドラインは主たる債務の整理が清算型手続の場合も想定しており、その場合の残存資産の上限は「早期に着手したことによる、保有資産等の劣化防止に伴う回収見込額の増加額」とされています(7項(3)③)。法人の破産と経営者個人のガイドライン利用を組み合わせる形は、実務でも用いられています。
ガイドラインを使えば、必ず自宅が残りますか
必ずしも残るわけではありません。ガイドラインは対象債権者が「真摯かつ柔軟に検討することとする」と定めているだけで(7項(3)③ b))、結論を保証していません。保証人の側から、なぜその資産が必要なのかを対象債権者に説明することが前提とされています(同 a))。
保証債務を履行した場合、税金はどうなりますか
まず原則から確認すると、不動産などの資産を売却して保証債務の履行に充てた場合、その売却自体は譲渡所得の課税対象です(所得税法33条)。代金を債務の返済に回したからといって、課税されないわけではありません。
そのうえで、保証人が保証債務を履行するために資産を譲渡した場合、主たる債務者に対する求償権の全部または一部を行使できないときは、その行使できない金額を譲渡所得の計算上なかったものとみなす特例があります(所得税法64条2項)。資産を売って保証債務を払う設計をするときは、この特例の要件を満たすかどうかを、譲渡の前に確認しておく必要があります。
※本記事は2026年9月時点の情報に基づいています。最新情報は各公式サイト等でご確認ください。
