税務調査で「手続」は争えるのか│事前通知・調査結果の説明と、手続の違法が課税処分に与える影響
税務調査への対応というと、売上の計上時期や経費の必要性といった「中身」の話が中心になりがちです。しかし税務調査には、国税通則法が定める手続のルールがあります。どこまで調べられるのか、いつ何を通知しなければならないのか、調査を終えるときに何をしなければならないのか。これらは条文に書かれています。
本記事では、税務調査の手続がどう定められているか、そして手続に違法があったときに課税処分の効力がどうなるのかを整理します。あわせて、調査対応を誰に頼むかという実務的な論点にも触れます。
税務調査の手続は、平成23年の改正で法律に書き込まれました
かつて税務調査の手続は、各税法に質問検査権の規定が置かれているだけで、通知や終了時の説明については法律上の定めがありませんでした。平成23年度の国税通則法改正により、これらが第7章の2(国税の調査)にまとめて規定されています。
質問検査権
税務職員は、調査について必要があるときは、納税義務者等に質問し、帳簿書類その他の物件を検査し、またはその提示・提出を求めることができます(国税通則法74条の2以下)。
事前通知
税務署長等は、実地の調査を行う場合には、あらかじめ納税義務者に対し、調査を開始する日時・場所、調査の目的、調査の対象となる税目と課税期間、調査の対象となる帳簿書類その他の物件などを通知しなければなりません(国税通則法74条の9第1項)。
ただし、違法・不当な行為を容易にし、正確な課税標準等の把握を困難にするおそれなど、調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められる場合には、事前通知を要しないとされています(国税通則法74条の10)。いわゆる無予告調査の根拠です。
調査の終了の際の手続
調査の結果、更正決定等をすべきと認められない場合には、その旨を書面で通知しなければなりません(国税通則法74条の11第1項)。非違があると認められる場合には、調査結果の内容を説明することとされています(同条2項)。
また、修正申告等を勧奨する場合には、修正申告書を提出すると不服申立てをすることはできないが更正の請求をすることはできる旨を説明し、その旨を記載した書面を交付しなければなりません(同条3項)。この点は、税務調査で7年分の修正申告を求められたら―安易な応諾が招く重加算税の罠でも触れたとおり、勧奨に応じて修正申告書を出してしまうと、その課税標準等について不服申立てをすることができなくなります。
運用の詳細は、国税庁の調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)と税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)で確認できます。
手続に違法があれば、課税処分は取り消されるのか
ここが最も誤解されやすいところです。結論から言えば、手続に瑕疵があったというだけでは課税処分は取り消されない、というのが長く裁判例の到達点とされてきました。
東京高裁平成3年6月6日判決は、調査手続の単なる瑕疵は更正処分に影響を及ぼさず、調査の手続が刑罰法規に触れ、公序良俗に反し、または社会通念上相当の限度を超えて濫用にわたる等の重大な違法を帯び、何らの調査なしに更正処分をしたに等しいものとの評価を受ける場合に限り、その処分に取消原因があると解するのが相当であるとしました。この判断基準は、納税者にとって厳しいもの、つまり処分が取り消されにくいものとして運用されてきました。
したがって、「事前通知がなかったから処分は無効だ」という主張が、それだけで通ることは多くありません。手続違反の主張は、課税要件事実の認定を争う本筋と組み合わせて構成するのが基本になります。
調査結果の説明については、争う余地があります
例外的に動きがあるのが、調査終了の際の説明(国税通則法74条の11第2項)です。東京高裁令和4年8月25日判決(公刊物未登載。LEX/DB文献番号25593735)は、平成23年改正の趣旨から、税務当局が説明責任を果たさず、自ら納税義務の内容の確定を行う意思のある納税義務者の修正申告等の機会が実質的に失われたと評価される事案については、その手続を経てされた課税処分を取り消すべき場合があるとしました。そのうえで、取消しを「重大な違法」がある場合に限るという国側の主張を、改正の趣旨に照らして採用できないとしています。この判決の全文は、柳谷憲司税理士がご自身のサイトで公開されています。
もっとも、同判決は、74条の11の趣旨から枠組みを立てたうえで、当該事案についてはその趣旨に反するものとは認められないとして、納税者の請求自体は棄却しています。税務代理人が約1か月にわたって説明の日程調整に応じず、当日も説明を最後まで聞く意思はないと述べていた事案でした。
また、その後の国税不服審判所の裁決が、この枠組みをそのまま踏襲しているわけでもありません。調査結果の説明については争う余地がある、という程度に見ておくのが実際に近いところです。
ただし、理由の記載を欠く処分は別です
一方で、処分に理由が記載されていない場合は扱いが異なります。根拠は、一般法である行政手続法と、青色申告について置かれた個別の税法の定めとの二段構えになっているので、順に見ていきます。
一般法として、行政手続法14条が働きます
国税通則法74条の14第1項は、国税に関する法律に基づき行われる処分について、行政手続法の第2章(申請に対する処分)と第3章(不利益処分)を適用しないと定めています。その結果、行政手続法8条(理由の提示)と同法14条(不利益処分の理由の提示)を除いており、この二つは国税の処分にも適用されます。更正や決定は不利益処分ですから、行政手続法14条によって理由の提示が必要になります。
どこまで書けば足りるのかについて、最高裁平成23年6月7日第三小法廷判決(民集65巻4号2081頁。一級建築士の免許取消処分が争われた事案)は、14条1項本文の趣旨を、行政庁の判断の慎重と合理性を担保して恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与えるところにあるとしたうえで、提示すべき理由の程度は、根拠法令の規定内容、処分基準の存否・内容と公表の有無、処分の性質と内容、原因となる事実関係の内容などを総合考慮して決めるべきだとしました。そして、公にされていた処分基準の適用関係が示されていなかったことを理由に、処分を違法としています。
青色申告には、これに加えて個別の税法の定めがあります
青色申告書に係る更正をするときは、更正通知書にその更正の理由を付記しなければならないと、所得税法と法人税法がそれぞれ定めています(所得税法155条2項、法人税法130条2項)。青色申告の承認を取り消すときも、取消しの基因となった事実がどの取消事由に当たるかを通知書に付記しなければなりません(所得税法150条2項、法人税法127条2項)。
この上乗せは、青色申告制度そのものの構造から出てくるものです。法定の帳簿組織による正当な記載に基づく限り、その帳簿の記載を無視して更正されることはない。この保障を実効的にするために、帳簿の記載をどう否認したのかを通知書に書かせる、という組み立てになっています。
どこまで書けば足りるかについて、最高裁昭和60年4月23日判決(民集39巻3号850頁)は、二段階の枠組みを示しています。帳簿書類の記載自体を否認して更正する場合は、単に更正に係る勘定科目とその金額を示すだけでは足りず、そのような更正をした根拠を、帳簿記載以上に信憑力のある資料を摘示して具体的に明示することを要する。これに対し、帳簿書類の記載自体を否認せずに更正する場合は、その資料の摘示がなくても、更正の根拠を「更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由附記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示するもの」であれば足りる、としています。ただし、帳簿を否認しない類型でも、理由付記の二つの趣旨を満たしている必要があります。
取り消されたあと、課税庁はもう一度処分できます
手続の違法を理由に処分が取り消されたとしても、それで課税関係が終わるわけではありません。取消判決は処分の効力を失わせるだけで、課税要件を満たしているかどうかの判断まで確定させるものではないため、課税庁は除斥期間内であれば、手続をやり直して改めて処分をすることができます。制度上は、同じ内容の処分がもう一度出てくる可能性が残ります。
ただ、一度取り消された処分を改めて行うことについては、課税庁の側もためらいを感じていると思われる場面を多く見てきました。手続の瑕疵を指摘されたあとで同じ事案に再度着手するのは、組織としても負担が小さくないからです。もちろんケースバイケースで、事案の規模や争点の性質によって対応は変わります。それでも、「手続で争っても結局同じ処分が出てくるだけだ」と決めつけて、手続の問題を最初から捨てる必要はありません。手続で争うこと自体に意味がある場面はあります。
調査対応を誰に頼むか
実務では、税務調査の立会いは顧問税理士が担うのが通常です。
そのうえで、弁護士が関与する意味があるのは、次のような局面です。
- 手続の適法性が論点になる場面。行政処分の要件・効果、理由の提示、不服申立て、取消訴訟という一連の枠組みは行政法の領域です。調査手続の問題を、処分の取消しまで見据えた形で整理するには、この枠組みで考える訓練が要ります。
- 法律の解釈・適用が問題になる場面。取引の私法上の性質をどう捉えるか、つまり誰と誰の間のどういう契約なのか、いつ効力が生じたのかといった点によって課税関係が変わる事案では、税法の前に民法や会社法の解釈が問題になります。条文の文言と趣旨から結論を組み立て、その筋道を書面にする作業そのものです。
- 事実認定が争われる場面。とりわけ重加算税の賦課要件である「隠蔽または仮装」(国税通則法68条)が問題になる事案では、何をもって仮装と評価するかという事実認定と評価の争いになります。
- 刑事に発展し得る場面。査察(国税犯則調査)に移行した場合や、ほ脱の疑いが向けられている場合は、供述の扱いを含めて刑事手続の視点が必要になります。
なお、弁護士は税理士となる資格を有していますが(税理士法3条1項3号)、税理士登録をしていない弁護士がそのまま税務代理を行えるわけではありません。所属弁護士会を経て国税局長に通知することにより、その国税局の管轄区域内で税理士業務を行うことができるとされています(税理士法51条1項。いわゆる通知弁護士)。国税庁も「国税局長に通知を行った弁護士」として制度を案内しています。通知を経ていない弁護士が調査の立会いを求めても、権限がないとして断られるのが実情です。
逆に言えば、司法試験で税法が必修科目ではない以上、弁護士であれば当然に税務に通じているわけでもありません。税理士と弁護士のどちらか一方ではなく、論点に応じて役割を分けるのが現実的です。
よくある質問
事前通知がないまま調査に来られました。断れますか
調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められる場合には、事前通知を要しないとされています(国税通則法74条の10)。無予告であること自体は直ちに違法ではありません。ただし、その事案が本当にこの要件に当たるのかは、後から争える論点です。
調査結果の説明を受けないまま、修正申告を勧められました
非違があると認められる場合には、調査結果の内容を説明することとされています(国税通則法74条の11第2項)。また、修正申告を勧奨する際には、不服申立てはできないが更正の請求はできる旨の説明と書面の交付が必要です(同条3項)。
手続に問題があったことは、どこで主張すればよいですか
更正処分等がされた後の再調査の請求・審査請求・取消訴訟の中で主張することになります。調査結果の説明については前述の東京高裁令和4年判決のような動きがありますが、その他の手続については、瑕疵だけで処分が取り消される場面はなお限られます。課税要件事実そのものを争う主張と併せて構成するのが通常です。
※本記事は2026年9月時点の情報に基づいています。最新情報は各公式サイト等でご確認ください。
