シンガポールの雇用法入門(前編)│就労パス(EP・S Pass・Work Permit)とLOC、労働時間・残業・休日の規制

※本記事は2026年9月時点の情報に基づいています。最新情報は各公式サイト等でご確認ください。

シンガポールで人を雇うとき、あるいはシンガポールの会社に雇われて働くとき、押さえておきたいルールは大きく3つの層に分かれます。1つ目は、そもそも誰が働けるのかを決める就労パス(Work Pass)。2つ目は、労働時間・休日・残業の規制。3つ目は、雇用契約書に何を書くかです。

日本の感覚で臨むと戸惑う点がいくつかあります。外国人向けの就労パスには、人数枠(クォータ)があるものとないものがあること。労働時間や残業代の規制は、日本と違って一部の従業員にしか及ばないこと。そして、雇用の主要条件を勤務開始から14日以内に書面で渡す義務があることです。前編である本記事では、1つ目の就労パスと、2つ目の労働時間・休日・残業を扱います。3つ目の雇用契約書(KETs)と、秘密保持・競業避止・個人情報の条項は、後編にまとめました。

外国人が働くには就労パスが必要│主な3種類と、例外のLOC

シンガポールで外国人を雇うには、その人が有効な就労パス(work pass)を持っていなければなりません(外国人労働力雇用法(Employment of Foreign Manpower Act 1990)5条1項)。就労パスを発給するのは人材開発省(Ministry of Manpower、MOM)です。会社に雇われて働くための就労パスは、Employment Pass(EP)、S Pass、Work Permitの3種類が中心です。

EP S Pass Work Permit
主な対象 管理職・専門職など 中技能の技術者・専門スタッフ 建設・製造・造船・プロセス・サービス業の労働者
最低給与(固定月給) S$5,600から(金融業はS$6,200から)。年齢に応じて上がる S$3,300から(金融業はS$3,800から)。年齢に応じて上がる なし
人数枠(クォータ) なし あり あり

最低給与は、2027年1月1日以降の新規申請(更新は2028年1月1日以降に期限が来るもの)から、EPがS$6,000(金融業はS$6,600)、S PassがS$3,600(金融業はS$4,000)に引き上げられます(MOMのEPの要件S Passの要件)。

EP│人数枠はないが、給与とCOMPASSで選別される

EPは、管理職・専門職などを対象とするパスです。人数枠も外国人雇用税もないのが大きな特徴で(MOM:EPの概要)、日本から派遣される駐在員の多くはEPで働いています。

そのかわり、審査は2段階です。まず、年齢に応じた最低給与を満たすこと。そのうえで、ポイント制の審査であるCOMPASS(Complementarity Assessment Framework)で40点を取る必要があります。COMPASSでは、給与水準、学歴、社内の国籍の多様性、現地人材の雇用状況の4項目と、人材不足の職種(Shortage Occupation List)に当たる場合の加点を、それぞれ最大20点で評価します。固定月給S$22,500以上の場合、海外からの企業内転勤者(intra-corporate transferee)として申請する場合、期間が1か月以内の職に就く場合は、COMPASSが免除されます(MOM:EPの要件)。

また、EPやS Passを新規に申請する前には、公正な採用の枠組み(Fair Consideration Framework、FCF)に基づき、政府の求人サイトMyCareersFutureに14日間連続で求人を出し、現地の候補者を公平に検討しなければなりません。一部の求人はこの広告義務が免除されます(MOM:FCF)。

S PassとWork Permit│人数枠(クォータ)と外国人雇用税がある

S Passは中技能の技術者・専門スタッフ向け、Work Permitは建設・製造・造船・プロセス・サービス業の労働者向けのパスです。どちらにも、会社ごとに雇える人数の上限(クォータ)があり、毎月の外国人雇用税(levy)もかかります。

クォータは、従業員全体に占める外国人の割合の上限(Dependency Ratio Ceiling、DRC)として業種ごとに決まっています。たとえばサービス業では、Work PermitとS Passの保有者を合わせて従業員全体の35%まで、そのうちS Pass保有者は10%までです。製造業のDRCは60%(S Passは15%まで)、建設業とプロセス業は83.3%、造船業は75%です(MOM:S Passのクォータと外国人雇用税)。

ここでの「従業員全体」は、直近3か月平均の現地従業員数に、発給済みのWork Permit保有者とS Pass保有者を足したものです(MOM:従業員数の数え方)。現地従業員(シンガポール国民・永住者)の数え方は月給によって異なり、現地適格給与(Local Qualifying Salary、LQS)に届かない場合は1人として数えられないので注意が必要です(MOM:LQS)。つまり、現地の従業員を一定以上の給与で雇っていなければ、S PassやWork Permitの外国人を増やせない仕組みです。

例外としてのLOC(Letter of Consent)

3種類のパスとは別に、例外的な枠として同意書(Letter of Consent、LOC)があります。シンガポール国民または永住者と結婚して長期滞在パス(Long-Term Visit Pass、LTVP/LTVP+)を持つ人や、国民・永住者の21歳未満の未婚の子でLTVPを持つ人は、雇用主がLOCを取得すれば働くことができます(MOM:LOCの対象者)。LTVP/LTVP+をICAへ申請・更新する際に申し込める事前承認型のPLOC(Pre-approved Letter of Consent)もあります。

注意したいのは、EP・S Pass保有者の帯同家族として滞在する家族パス(Dependant's Pass、DP)の保有者は、このLOCでは働けないことです。DP保有者が会社に雇われて働くには、EP、S Pass、またはDP保有者向けのWork Permit(DP-WP)を取る必要があります(MOM:DP保有者の就労)。

労働時間・休日・残業│原則は契約で自由に決める

日本の労働基準法は、労働時間・休日・割増賃金の規制を原則としてすべての労働者に及ぼし、適用を外れるのは管理監督者などの例外に限られます(労働基準法41条)。シンガポールの考え方は、ほぼその逆です。雇用法(Employment Act 1968)にも労働時間・休日・残業の規制はありますが、適用されるのは給与が一定額以下の従業員だけで、それ以外の従業員の労働時間や残業の扱いは、基本的に雇用契約で決めることになります。

雇用法そのものは、ほぼすべての従業員に適用される

前提として、雇用法自体は、雇用契約(contract of service)に基づいて働くほぼすべての従業員に適用されます。適用外は、船員(seafarer)、家事労働者(domestic worker)、公務員・法定機関(statutory board)の職員に限られます。管理職・専門職(managers and executives)も給与額にかかわらず対象で、国籍も関係ありません。シンガポールの会社に雇われてEPで働く日本人も、雇用法の対象です(MOM:雇用法の適用対象)。

規制がかかるのは「Part IV」の対象者だけ

労働時間・休日・残業のルールは、雇用法の第4編(Part IV)にまとめられています。Part IVが適用されるのは、次の2つのグループです(雇用法35条)。

区分 基本月給 典型例
ワークマン(workman:肉体労働に従事する者など) S$4,500以下 工場・建設現場の作業員、運転手
ワークマン以外の従業員(管理職・専門職を除く) S$2,600以下 事務スタッフ、店舗スタッフ

ここでいう月給は、残業代・賞与・年末手当(Annual Wage Supplement、AWS)・生産性インセンティブ・各種手当を除いた基本給です。また、管理職・専門職(managerial or executive position)にある人は、基本給がいくらであってもPart IVの対象になりません(雇用法35条(b))。MOMの説明では、管理職・専門職とは経営・監督的な職務を担う人で、採用・懲戒・解雇・人事評価・報酬の決定、経営方針の策定、事業の運営などに携わる人を指します。弁護士・会計士・医師のように、高等教育と専門知識を持ち、管理職と同様の条件で雇われている専門職も含まれます(MOM:雇用法の適用対象)。肩書だけでなく、職務の中身で判断されることになります。

Part IVの対象者に適用されるルール

  • 労働時間:1日8時間・週44時間まで。週5日以下の勤務などを合意すれば、1日9時間まで延ばせます(週44時間の上限は同じ)(雇用法38条1項
  • 休憩:6時間を超えて連続で働かせてはいけません。ただし、性質上continuousに行う必要がある業務では、合計45分以上の食事の機会を確保したうえで8時間続けて働かせることができます(同項(a)(c)
  • 残業代:上限を超えて働かせた時間には、時間当たり基本給の1.5倍以上を支払います(同条4項
  • 残業の上限:月72時間まで(同条5項
  • 1日の上限:事故や予見できない業務の中断などの場合を除き、残業を含めて12時間まで(同条8項
  • 休日:週1日の休日(rest day、無給)。原則は日曜で、会社が別の曜日を指定することもできます(雇用法36条1項

これらは原則で、隔週で労働時間が変わる勤務や、1日12時間までの交替勤務には別の枠組みがあります(雇用法38条1項(f)40条)。

Part IVの外にいる人は、労働時間も残業も契約次第

Part IVの対象外の従業員には、上の労働時間の上限、法定の残業代、週1日の休日といったルールがありません。何時間働くのか、残業代を払うのか、休日を週何日にするのかは、雇用契約で決めることになります。MOMも、Part IVの対象外の従業員の労働条件は雇用契約によると説明しています(MOM:労働時間・残業・休日)。雇用契約で「残業代は支給しない(基本給に含む)」と定めることもできます。

それでも全員に及ぶもの│祝日・年次有給休暇・病気休暇

もっとも、雇用法の対象である以上、Part IVの外にいる従業員にも及ぶルールがあります。代表的なのが次の3つです。

  • 祝日(public holiday):年11日の祝日は有給の休日です(雇用法88条1項。日付はMOMの祝日一覧)。祝日が休日(rest day)に重なった場合は、翌労働日が有給の休みになります(雇用法88条1項(b))。祝日に働かせた場合、Part IVの対象者には基本給1日分を上乗せして支払います(同条4項)。Part IVの対象外の従業員については、雇用主は、基本給1日分の上乗せに代えて、代休や時間単位の休みを与えることもできます。時間数の合意がなければ、4時間以内の勤務なら4時間、4時間を超える勤務なら1日の休みです(同条4A項)。
  • 年次有給休暇(annual leave):勤続3か月以上の従業員に、1年目は7日、以後1年ごとに1日ずつ増えて最大14日です。1年に満たない期間については、勤続した月数に応じた比例付与になります(雇用法88A条1項)。
  • 病気休暇(sick leave):勤続3か月以上で取得でき、日数は勤続期間に応じて増えます。医師の診断に基づき、勤続3か月で外来5日・入院15日、4か月で8日・30日、5か月で11日・45日、6か月以上で外来14日・入院60日です(入院の日数は外来分を含みます)(雇用法89条)。

日本の年次有給休暇(初年度10日・最大20日)と比べると日数は少なめで、実務では法定を上回る日数を契約で与えている会社が多くあります。

よくある質問

EPで働く駐在員にも残業代を払う義務はありますか?

雇用法上の義務はありません。EPの最低給与は基本月給S$2,600を大きく上回るため、ほとんどのEP保有者はPart IVの対象外で、残業代の有無は契約で決まります。ただし、祝日・年次有給休暇・病気休暇のルールは及びます。

まとめ

  • 外国人の就労には就労パスが必要。S PassとWork Permitには人数枠(クォータ)と外国人雇用税(Levy)があり、EPにはない。LOCは限られた人向けの例外的な枠
  • 労働時間・残業・週1日の休日の規制(Part IV)は、基本月給がワークマンS$4,500以下、それ以外S$2,600以下の従業員(管理職・専門職を除く)だけ。それ以外は契約で決まる
  • 祝日・年次有給休暇・病気休暇は、Part IVの外の従業員にも及ぶ
  • 雇用契約書に書くべき主要雇用条件(KETs)と、秘密保持・競業避止・個人情報の条項は後編

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※本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に関する法的助言ではありません。

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