シンガポールで裁判の傍聴とMaxwell Chambers見学│最高裁(Supreme Court)の証人尋問、State Courtsの期日表、国際仲裁のヒアリング室
シンガポールで、紛争解決の現場を見て回りました。国の裁判所である州裁判所(State Courts)と最高裁判所(Supreme Court)の傍聴、そして国際仲裁の施設であるマックスウェル・チェンバース(Maxwell Chambers)です。州裁判所では空振りが続きましたが、最高裁では民事の証人尋問をじっくり見ることができました。同じ「もめごとを解決する場所」でも、入りやすさも雰囲気もまったく違いました。
州裁判所の傍聴は、期日表の読み方で決まります
シンガポールの裁判は公開が原則で、予約も紹介もいりません。当日の開廷予定は、司法府のHearing List(開廷予定表)で誰でも検索できます。裁判所(State CourtsかSupreme Courtか)と日付を選び、事件名や種別で絞り込む形です。

手荷物検査を抜けて中に入ります。
重要なのは、一覧ではなく事件名をクリックした先の詳細ページです。ここに「Hearing type(期日の種別)」と「Venue(法廷)」が出ます。傍聴の候補を選ぶときの目安は、種別がTrialなら証人尋問を含む本番の審理、MentionやPre-Trial Conferenceなら短時間で終わる事務的な手続き、というものです。Trialでもその日に証人尋問があるとは限らないので、最終的には当日の掲示と職員の案内に従うことになります。法廷の表記がCourtなら公開法廷、ChamberやIn privateと書かれていれば、裁判所の案内のとおり一般には傍聴できません。

家庭裁判所は原則非公開です。
実際には、3件続けて空振りしました
民事の審理を2件選んで行き、そのあと刑事の法廷にも寄ったのですが、結果は次のとおりでした。
- 1件目の民事:法廷のドアが開きませんでした。理由は確認できていません。
- 2件目の民事:法廷には入れたものの、和解の方向で話が進んでいて、その場は短時間で終わる流れでした。
- 刑事の法廷:その日は事務手続きの日でした。強制積立制度であるCPF(Central Provident Fund)への拠出を怠った雇用主の事件を、次々とさばいていました。
私が見たのは2日間の数件だけなので、これが普通だとまでは言えません。ただ、民事の審理は当日に予定が変わることがあると聞きました。行くなら、同じ建物で同じ時間帯の候補を2つか3つ持っておくほうが安心です。
地裁・高裁・控訴院の関係
ここで戸惑うのが、日本と裁判所の並びが違う点です。ざっくり言うと、比較的軽い事件は州裁判所(State Courts)が扱い、その上に最高裁判所(Supreme Court)があります。司法府の説明によると、最高裁判所の中には、高等法院(High Court)と、いちばん上の控訴院(Court of Appeal)が入っています。
| シンガポール | ざっくりした役割 | 日本でいえば |
|---|---|---|
| State Courts(州裁判所) | 比較的軽い民事・刑事の事件 | 簡裁・地裁に近い |
| High Court(高等法院) | 重大事件や大きな民事事件の一審と、州裁判所からの上訴 | 地裁と高裁の役割をあわせ持つ |
| Court of Appeal(控訴院) | 最終の上訴審 | 最高裁に近い |
高等法院と控訴院は、同じ最高裁判所の建物に入っています。日本の感覚で「最高裁」と聞くと上告審を思い浮かべますが、シンガポールの最高裁判所の建物では、一審の審理も開かれています。
最高裁判所(Supreme Court)で、ようやく証人尋問を見られました
州裁判所では空振りが続いたので、別の日に最高裁判所にも行ってみました。司法府の案内によると最寄りはMRTのシティホール駅(City Hall)で、国会議事堂(Parliament House)のすぐそばに建っています。屋上に円盤をのせたような形の建物です。

屋上に円盤がのった形で、遠くからでもわかります。
このあたりはシビック・ディストリクト(Civic District)と呼ばれる一角で、国会議事堂のほか、かつての最高裁判所の建物も残っています。旧最高裁の建物は、旧市庁舎とあわせて、いまは国立美術館のナショナル・ギャラリー・シンガポール(National Gallery Singapore)になっています。

芝生の奥に高層ビルが並びます。

ナショナル・ギャラリー・シンガポールです。
当日の朝は、開廷予定表で10時開始の民事の審理(Civil Trial)をいくつか確認してから向かいました。

この日は10時開始の審理を目当てに来ました。
傍聴したのは、原告1人に対して被告が2人という民事事件で、この日は被告側の本人尋問が行われていました。10時から法廷に入って、尋問の流れを追いました。
この日の主尋問は、宣誓供述書の確認でほぼ終わり
日本との違いでいちばん驚いたのが、主尋問(examination-in-chief)のやり方です。証人が証言台(witness box)に立つと、代理人は事前に提出してある宣誓供述書(AEIC:Affidavit of Evidence-in-Chief)を示し、「これはあなたが署名したものですか」と確認します。主尋問はそれでほぼ終わりで、すぐに相手方の反対尋問(cross-examination)に移りました。司法府の民事の審理についての案内でも、証人の宣誓供述書はふつう審理の前に交換されているので、主尋問は通常ごく短い手続きになる、と説明されています。裁判官の許可があれば、法廷で追加の質問をすることもできます。
日本の民事裁判でも陳述書を出すことは多いですが、法廷ではそのうえで主尋問を口頭で行います。この日の法廷では、主尋問の中身は書面に任せて、法廷の時間はほとんど反対尋問に使う、という組み立てでした。反対尋問は40〜50分ほど続き、そのあと、被告側の代理人による再主尋問(re-examination)が30分ほどありました。
証拠資料は、本人が手元のファイルで確認
反対尋問の進め方でも、日本との違いに気づきました。この日の法廷では、尋問を受けている被告本人が、証拠資料をまとめたファイルを手元に置いていました。原告側の代理人が資料番号を告げると、本人が自分でファイルをめくって該当箇所を確認し、それに答える、という流れです。本人がうまく該当ページを見つけられずもたついた場面では、被告側の代理人が手を貸していました。原告側の代理人は、その間も自分の席を離れず、質問を続けていました。日本の尋問でよく見る、代理人がそのつど資料を証人に示して回収する進め方とは、ここが違いました。
裁判官が入ってきたのは、異議が出たとき
尋問の途中、質問の仕方をめぐって、相手方の代理人から異議(objection)が出る場面がありました。この日、裁判官が口を挟んだのは、こうして異議が出たときくらいで、それ以外は代理人の質問と証人の答えを見守っていました。
主尋問、反対尋問、再主尋問という順番や、異議が出たときに裁判官が判断するという運び方そのものは、日本の尋問とよく似ています。時間配分は事件にもよると思いますが、1人にかける時間は日本より少し長いように感じました。尋問の合間には、5〜10分ほどの休憩が入りました。
法廷の配置と、黒いガウン
この日の法廷の配置は、日本とはかなり違いました。日本の民事法廷では、原告側と被告側が左右に分かれて向かい合って座り、証人は中央の証言台で裁判官と向き合います。この法廷では、双方の代理人が裁判官のほうを向いて、同じ長い机に並んで座っていました。証言台は中央ではなく右側にあり、証人は横を向いて答えていました。
審理していたのは最高裁判所の中の高等法院(High Court)で、代理人の弁護士は全員、黒いガウンを着ていました。最高裁の実務指針(Supreme Court Practice Directions)で、公開の法廷では弁護士がガウンを着ることになっています。裁判官は1人で、書記官にあたる職員が2人。このあたりは、特に違和感はありませんでした。
もうひとつ気づいたのが、開廷予定表の代理人欄に名前の出ていない代理人も、法廷に入っていたことです。予定表だけで、その日に法廷に出る人が全部わかるわけではないようです。
傍聴席はガラスの壁の向こう。出入りのたびに一礼
傍聴席は、当事者や代理人のいる側とは透明なガラスの壁で完全に仕切られていて、行き来はできません。傍聴席の側には警備の職員が2人いて、私が入ったときには、携帯電話をサイレントにすること、録音をしないことを、傍聴している全員に念押ししていました。途中で、先生に引率された学生のグループが5、6人入ってきましたが、そのときは特に何も言っていませんでした。
裁判官が入ってくると、代理人だけでなく傍聴席も含めて、全員が立ち上がります。日本と違ったのは、傍聴人が法廷に出入りするたびに、裁判官のほうへ頭を下げていたことです。
日本の民事裁判と、この日の法廷の違い
| 項目 | 日本の民事裁判 | この日の法廷(高等法院) |
|---|---|---|
| 主尋問 | 陳述書を出したうえで、法廷でも口頭で行う | 宣誓供述書(AEIC)の署名を確認して、ほぼ終わり |
| 反対尋問・再主尋問 | あり | あり。反対尋問40〜50分、再主尋問30分ほど |
| 異議 | 代理人が出し、裁判官が判断する | 同じ。裁判官が入るのは異議が出たときくらい |
| 席の配置 | 原告側と被告側が向かい合い、証言台は中央 | 双方の代理人が裁判官を向いて並び、証言台は右側 |
| 代理人の服装 | スーツ | 全員が黒いガウン |
| 証拠資料の提示 | 代理人が証人に資料を示し、確認後に回収する | 本人が手元のファイルから該当箇所を自分で探す |
| 傍聴人の出入り | 決まった作法はない | 出入りのたびに、裁判官のほうへ一礼 |
| 傍聴席 | 柵で仕切られる | ガラスの壁で完全に分かれていた |
傍聴を終えたあとのお昼は、ホンリム(Hong Lim)のホーカーでワンタンミーを食べました。チャイナタウン周辺で食べたものは、チャイナタウンで食べたものをまとめた記事に書いています。
Maxwell Chambers│旧税関庁舎が仲裁施設になっています
裁判所とは別に、シンガポールの紛争解決を支えているのが国際仲裁です。その中心が、32 Maxwell RoadにあるMaxwell Chambersです。1932年築の旧税関庁舎(Custom House)を改装し、2010年に開業した施設で、「世界初の統合型紛争解決施設」を掲げています。

旧税関庁舎を改装した建物です。
ここは裁判所ではなく、審理のための貸し施設です。ロビーで用件を伝えたところ、NTU(Nanyang Technological University)の学生だと話すと、受付の方が中を見せてくれました。
見せてもらったヒアリング室は、中央に仲裁人が座り、左右に当事者が向かい合う配置でした。壁を開けて隣の部屋とつなげると2倍の広さになり、60人ほど入るという説明を受けました。公式サイトでは最大の部屋の収容は55名とされているので、数字は少しずれます。差の理由までは確認できていません。プロジェクターが2台入っていて、証拠を映しながら進める前提の作りです。
印象的だったのは、当事者ごとの控室が用意されていることです。休憩中に相手方と顔を合わせずに方針を相談できるので、法廷の待合室とは考え方が違います。
そして館内には、各機関のロゴが並ぶ壁があります。SIAC(Singapore International Arbitration Centre)、シンガポール国際調停センター(SIMC)、シンガポール海事仲裁協会(SCMA)に加えて、ICC、常設仲裁裁判所(PCA)、投資紛争解決国際センター(ICSID)のロゴが掲示されていました。ロゴが出ていることと、その機関が事務所を置いていることは別ですが、仲裁の主要機関がこの施設と関わっているのだと一目でわかる壁でした。
事務所棟は、ゲートの先で止まりました
SIACの事務局は、本館ではなく隣のMaxwell Chambers Suites(28 Maxwell Road)にあります。SIACの連絡先ページにも「28 Maxwell Road #03-01」と記載されています。こちらは2019年に開業した棟で、旧交通警察本部(Traffic Police Headquarters)の建物を使っています。

SIACの事務局もこちらにあります。
案内板までは入れましたが、その先はゲートで仕切られていて、通れませんでした。本館の受付の方からも「予約がないと厳しいと思います」と言われました。審理のための施設は来訪者を受け入れる作りで、事務局は執務の場として閉じている、という線引きです。
行く前に知っておくとよいこと
- 裁判所は予約不要です。服装はビジネスウェアかスマートカジュアル。空港と同じ手荷物検査があり、法廷内での撮影・録音は禁止されています。
- 法廷の出入りでは一礼を。最高裁の法廷では、傍聴人も出入りのたびに裁判官のほうへ頭を下げていました。裁判官が入ってくるときは、傍聴席も含めて全員が起立します。
- 期日は前日でも動きます。当日の朝に開廷予定表を引き直してから向かってください。
- Maxwell Chambersは貸し施設です。ヒアリング室の利用は予約制で、事務所棟に用事があるなら事前の約束が必要です。見学したいだけなら、本館の受付で相談するのが現実的でした。
- 開始時刻は事件ごとに違います。私が見た限りでは州裁判所は9時30分、最高裁判所の建物は10時開始のものが多かったのですが、開廷予定表の時刻がすべてです。
裁判は公開が原則で誰でも傍聴できるのに、当日の予定が変わるので中身を追うには準備が要る。それでも最高裁で見た証人尋問は、主尋問を書面に任せるところや法廷の配置が日本と違う一方で、反対尋問から再主尋問へ進む流れや異議の扱いは日本とよく似ていて、新しい発見の多い傍聴になりました。仲裁の施設は設備がよく整っていて見学もできたのに、実際の審理や事務局には近づけない。同じ紛争解決でも、開かれ方の向きが違うというのが、何日か歩いてみていちばん腑に落ちた点でした。
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※本記事は2026年9月時点の情報に基づいています。最新情報は各公式サイト等でご確認ください。

